韓国・台湾に於ける商標権侵害に関する諸問題

                                                   小島 高城郎
                                           (2001年パテント6月号掲載)
A. 序論
 知的財産権分野も日々変遷し、特に特許の分野を中心に、発明の概念、即ち特許権による保護対象の変遷という現象があり、ひいてはそれらを取り扱うプラクティスの改変等、改正・変更に余念がない。これは取りも直さず世の中、なかんずく取引経済社会の内容やシステムがその需要に応じて変遷していることに基づく。
 従って、例えば、BM特許にしても多少の批判はあっても、動的な取引社会の需要があるのであれば、それは必然的な発生現象であるといえるので、前向きに受け入れ、対処すべきと考える。また、これが取引経済社会を活性化することになり、更なる脱皮へと連鎖するものと思う。これは、商標の世界についても同様なことがいえるのであり、時代の流れに応じて、商標の概念、商品や役務の概念等も必然的に変動するのでそれにフレキシブルに対応すべきものであり、従って、商標権侵害の問題についても、上記の種々の観点から考察され対処されるべきものと考える。即ち、技術の凄まじい変遷に対応する形で、時機に乗り遅れないタイミングの良い商標の保護が図られるべきである。
 また、それは、国により技術や経済状態が相違するので、その国状に合った扱いがなされるべきといえよう。以下に述べる韓国や台湾についても、取引経済社会の内容やシステムの激しい変遷に対応した措置が講じられ、また講じられつつある。 (条文は、特に断り無き限り当該国のものである)

B. 韓国
 1.韓国においては、1997年の改正に続いて、時勢にマッチした改正商標法が本年(2001年)7月に施行される。それは、@現行の韓国商標制度の運営上の不備な点を是正するもの、A商標条約への加入に伴う改正、B標章の国際登録に関するマドリッドプロトコルへの加入に際しての改正、C不正競争防止及び営業秘密に関する法律(以下、不正競争防止法という)についての改正等である。以下、本稿のテーマに関するものに限定し、言及することとする。

 2.(1)基本的前提として、商標権侵害には、日本と同様、同一・類似範囲の侵害と、間接侵害がある。
 注意すべきは、間接侵害において、従来は販売目的の所持自体に対しては権利侵害を認めなかったが、1997年の改正時、指定商品の所持(保管行為)にまで適用範囲を拡張したことである。
  (2)民事上の侵害救済手段として、差止請求権、損害賠償権、信用回復請求権等があるが、2001年7月から施行される改正韓国商標法第24条の2において損失補償請求制度を新設している点が注目される。従来、商標出願人が登録出願したが未登録の状態の場合に、他人が、出願人のものと同一・類似の商標を同一類似の商品に使用しても、当該他人の使用に対して救済は受けられなかったが、今回の改正法において、原則的に出願公告(24条)があった後には、出願人が警告して業務上損失に相当する補償金を請求できるようにした(法第24条の2)というものである。但し、その権利行使は、商標権の設定登録があった後に可能とし(同第3項)、賠償額の推定等に関する第67条の規定は準用しないこととしている(同第5項)。
 尚、本規定(制度)は、日本国商標法第13条の2に対応するが、我国が、出願後の救済手段であるのに対し、これは出願公告後ゆえ、少々実効性が薄いと考える。それは、請求権行使の時期は同じであるが、該請求権を行使できる範囲(請求権発生時)が相違することから、損失補償額に差異が生ずるからである。
 ちなみに、我国同様、仮処分申請は、侵害成立が確実である限り有効な手段である。
  (3)刑事上の制裁は、抑止力としての効果があるので参考程度に述べる。
   (イ)商標権に対する侵害は、権限なく当該商標を使用することであり、侵害罪の構成要件もそのように規定されている。この際、商標は登録された商標である以上、登録取り消しの事由があるとしても審判(法第73条、74条)により取り消しが確定されるまでは登録商標としての権利を保有しているので、登録商標と同一又は類似する商標を使用する行為も商標権侵害罪に該当し(最高裁1990.9.25.宣告90ド1534)、その商標が表示された商品が韓国商標権の効力が及ばない我国へ輸出する目的だけで製造されたものであるとしても侵害に該当する(最高裁1994.2.22.宣告93ド3227)。但し、侵害行為があった後、その商標登録無効審決が確定される場合は、商標権は最初から存在しなかったことになるので、この場合は商標権侵害を構成しない(最高裁1996.5.16.宣告93ド839)。
  (ロ)商標権侵害の場合、罰金は、従来の2倍(5000万ウォン→1億ウォン)、懲役刑は、5年から7年と強化された(法第93条)。両罰規定も同様である(法第97条)。

 3.未登録商標の場合
 本件テーマとは直接関係しないが、未登録でも業務上の信用が化体しているか、しつつあるような場合、何らかの保護が得られるのか否か、あるいは使用せず登録のみしている者との関係等がいずれの国であっても同様であるが問題となる。
  (イ)韓国法制上、未登録商標の使用者は、それが取引界で周知の領域に及ばない限り何らの保護も受けられない。韓国商標法は、先願主義を採用するので、未周知の商標使用者が存在するとしても最先出願者が商標権を取得することになり不正競争防止法でも未周知の商標使用者は保護されないのが原則である。但し、公序良俗に反する出願等を理由に拒絶されることがある(法第7条4号)。
  (ロ)未登録の商標でもそれが取引界にて広く使用され、周知、著名になっている場合、周知商標に類似する商標(法7条@\)、著名商標と混同するおそれのある商標(法7条@])、並びに不正目的による国内外の周知・著名商標と同一又は類似する商標(法7条@]U)は、拒絶され、過誤登録は、審判請求により無効とされる(法71条@T)。無論、審決が確定されるまではその使用を禁ずることができず、また周知・著名商標所有者の方が、一時的(立証可能な場合)又は永久(立証困難な場合)に使用を諦めなければならないこともある等、不当性が叫ばれている。
 このような不当な問題点を一部でも解消している韓国の最高裁判所の判決(1993.1.19宣告92ド2054判決)には注目すべきものがある。 この判例の概要は以下の通りである。 
 即ち、「不正競争防止法第15条は、商標法、若しくは商法中の商号に関する規定等に不正競争防止法の規定と異なる規定がある場合には、その法に基づくようにしたものにすぎないので、商標法など他の法律によって保護される権利であるとしてもその法に抵触しない範囲内では不正競争防止法を適用することができる。
 商標の登録や商標権の譲受が自己の商品を他人の商品と識別させる目的でしたのではなく、国内に広く知られ使用されている他人の商標が商標登録されていないことが判明し、それと同一又は類似する商標や、商号、標識等を使用して一般需要者に他人の商品と混同をさせたり他人の営業上の施設や活動と混同させて利益を得る目的で形式上商標権を取得する場合には、商標の登録出願や商標権の譲受自体が不正競争行為を目的とするもので、仮に権利行使の外形を備えているとしても、これは商標法を悪用又は乱用するものであって、商標法による適法な権利の行使と認められないので、上記の不正競争防止法第15条に該当し同法第2条の適用が排除されると言えない。」と判示して‘権利濫用理論’を採用した。 

 4.不正競争防止法
 (1)現行の不正競争防止法は、国内において広く知られた他人の商標、商号等を不正に使用する不正競争行為と他人の営業秘密を侵害する行為を防止して健全な取引秩序の維持を目的とするものである。立法当時は、我国も同様であったが、不正競争行為というのが主に外国の周知・著名商標の模倣から始まることが多かった実状に鑑み、一種の必要悪とさえ思われ、その禁圧は国益に反することと認識される傾向さえあって、法理の著しい発展はなかった。しかし、近時、著名商標に関する社会的関心が高まり、特に韓国商標が外国で侵害される事例が次第に増えるに伴って不正競争防止の法理についての関心も高まってきた。
 そこで、この不正競争防止法についても改正され、本年(2001年)7月1日より施行される。商標法条約の履行事項を反映すると共に、近時特に議論されていた希釈化(dilution)論が明文化され、類似しない商品や営業に使用し、仮に混同が生じなかったとしても、有名商標の識別力及び名声を損なう場合、これに対し商標権者が当該商標等の使用を禁ずることができるようにした。

(2)この改正に関係する最高裁判所の判例を挙げると、以下の如くである。
「一つの企業が種々の産業分野にわたって異種商品を生産・販売するのが一般化された現代産業構造下では、需要者間に顕著に認識されている所謂著名商標と類似する商標を著名商標の指定商品でない他の商品(非類似商品)に使用した場合、取引・需要者は、著名商標権者やそれと特殊な関係にある人によりその商品が生産・販売されるものと認識し、商品の出所や営業の誤認、混同を起こす虞れがあるので登録は拒絶されるべきである」と判示(最高裁1985.7.23.宣告84フ74判決、1986.6.10.宣告83フ41判決等多数)した。また、その後「そのような混同の恐れがあるとするためには、著名商標の性質、営業の形態、その他の取引事情等に照らし、類似商標を使用する商品又は役務が著名商標の著名度とその指定商品又は役務の有する名声に便乗し顧客を誘引する程の競業関係ないし経済的な類縁関係がなければならない」という内容の判示をして広義の混同に関する判断基準を示した例がある(最高裁1991.2.12.宣告90フ1376判決)

 (3)不正競争行為により利益を侵害された者又は侵害される畏れがある者は、その行為の禁止又は予防を請求することができる。(不正競争防止法第4条)。
 ちなみに、周知営業標識と混同を生ずるおそれのある商号を登記した者に対しては、禁止請求権の一環として、登記商号の抹消請求をすることができる。これに関連しては日本の‘リンナイ株式会社’の商号‘リンナイ’に関する事例がある(韓国最高裁2000.9.29.宣告2000ダ21000)。
(4)また、上記不競法の改正は、他の諸先進国同様、近時インターネットの活用や電子商取引の活発化故に、他人の有名商標をドメインネームとして先登録する例が増加していることにも鑑み、行われたものである(第2条1号、4条、5条、6条)。

C. 台湾
1.台湾国においても、韓国同様基本的な侵害論は、日本と共通するところであるので、ここでは解釈論や改正法の動向等、特徴のあるところ、あるいは一般に関心あるであろう点についてのみ触れることとする。
 まず、前提として、商標専用使用権(商標権・専用使用権)の侵害については、中華民国商標法第61条及び第62条を中心に規定されているが、侵害問題の解決に有益と思われる事項について、ランダムに述べることとする。但し、以下の多くの事項は、台湾経済部智慧財産局のホームページ上に掲載されている情報を翻訳することを基本とし、コメントされていることを付言する。
 尚、この情報(下記3)において、ウエブサイト名とドメイン名の両方の表現を使用しているが、特に重要な問題はない。実際に問題が生ずるのは、ドメインネームについてだからである。

 2.商標専用使用権の侵害に関する解釈
 (1)商標法第62条には、「意図的に他人を欺瞞する」ことについて、
@同一又は類似の商品において、他人の登録商標と同一又は類似の図案を使用したとき、或いはA同一又は類似の商品の広告、ラベル、説明書、価格表、又はその他の文書において、他人の登録商標と同一又は類似の図案を付し、これらを陳列又は頒布したとき、行為者を3年以上の懲役、拘留、或いは20万元以下の罰金に科し又は併科すると定められている。本法でいう商標の使用とは、販売目的で商標を商品又はその包装、容器、ラベル、説明書、価格表、又はその他の類似の物件に用い、それらを所持、陳列、又は頒布することを指しており、同法第6条に規定されている。但し、他人の商標専用使用権を侵害する事実の有無については、司法機関が職権により設定する範囲であり、具体的な事実証明について裁判断される。
(2)具体的な事件を挙げると、米国の会社Bは、既に米国で登録した商標のX商品について、台湾の製造業者Cにその商標に係る商品を製造し、直接米国に輸出することを委託しており、そのX商品についての商標を台湾のA社が登録し商標権を取得した商標と同一である場合、製造を委託された製造業者Cが、米国の会社の商標を用いたX商品を製造し米国に直接輸出することは、台湾の市場における逆輸入行為ではない。現在、裁判所のほとんどの見解は、A社に対する商標権の侵害とは言えないとしている。(台湾高等裁判所台中裁判所87[1998]年度上易字第1555号刑事判決参照)。即ち、A社が侵害のおそれのあることを主張してその防止を請求できるかどうかについては、司法機関が職権によって裁決する。「逆輸入行為ではない」という判断が、すっきりしないが、そうであれば、台湾国内での製造行為であることを認定し、それを前提に判断せんとしているのであろう。従って、特別な事情(先使用権の存在、不正登録事由による登録失効等)ない限り、A社の商標権侵害を構成するのではないかと考える。
 ちなみに、「商標輸出監視システム作業実行手順」によると、税関が検査を行う際に、輸出者の提出する商標が輸入地において既に異なる商標権者により登録がなされている場合、その登録証のコピー及びその同意を表示する証明書を提出すれば、商品の輸出が許可され、商標権者に対しては、法律に基づく行動が取れることが通知される。
(但し、この作業実行手順は、商品輸出管理方法によるものであって、台湾経済智慧財産局の管轄範囲ではないため、関連情報については、貿易局のウェブサイト(www.moeaboft.gov.tw)上でダウンロードして頂きたい。)
   上述の製造委託があったX商品が、偽造商品取締部門又は警察又は検察の調査により検挙された場合、上記手順を進める中で、製造委託契約や米国商標証書などの関連する証明書類を提出する。明らかに他人の商標権等を侵害するおそれがないとき、検察署及び調査局の関連機関は自発的に差し押さえる必要はないが、商標権者が司法手続に基づいて差し押さえるとき、司法関連手続を採る必要がある。

3.商標登録とウェブサイト名登録の問題
(1)まず前提として、商標は商品等の出所を表す標識であり、ウェブサイト名はインターネット上の住所であって、両者には性質上の差異がある。後者については登録機関が申請人の活動性質によって、TWNIC、TANet(.edu)、Seednet(.com,.org,.net)、Hinetなど、それぞれの範囲について受理するのであって、経済智慧財産局の管掌範囲ではない。しかし、ウェブサイト名の使用が一般の消費者にそれが商品又は役務の出所を表す標識であると認識させるのに十分であり、且つ出願人が営業する商品又は役務にその標識を使用(専用)する意思があって、インターネット上の関連商品又は役務にそれを用いる場合、商標法の規定に基づいて「商標」又は「役務標章」を登録出願することができる。  
(2)他人の商標をドメイン名として登録するときの問題点
商標とウェブサイト名の登録についてはともに先出願登録制度を採用しており、他人の商標の文字をウェブサイト名として先登録した場合、またはウェブサイト名の一部を取って商標として登録出願をした場合についての現在の商標法及び関連法規は以下の通りである。 
(イ)他人の登録商標をウェブサイト名として登録し、ウェブページ又は関連するインターネット上で他人と同一又は類似の商品又は役務を表した場合、商標法第61条、62条等の商標専用使用権の侵害を構成する可能性がある。また、ウェブサイト名の使用又は表示は、商標としての使用でなくても、他人の商品との混同、あるいは他人の営業又はサービス施設ないし活動との混同を招くため、公正取引法第20条及び第24条の規定に従わなければならない。
 (ロ)他人の著名なウェブサイト名を商標として登録出願したとき、指定商品又は役務が他人の登録ウェブサイト名のサイトにおいて提供する商品又は役務と関連する場合、客観的に見て消費者の混同や誤認を招くおそれがあるため、商標法第37条第7号の適用を構成する可能性がある。
 (ハ)ドメイン名が他人の商標権を侵害している場合、台湾インターネット情報センターが公告した「ドメイン名論議処理原則」によると、受理機関は裁判所の判決通知又は法律効力を有する和解書によってドメイン名を変更しあるいはそのドメイン名を取り消すとされている。
(3)侵害・不正競争防止体制の構築
 (イ)現在の取引社会にマッチした法規の整備が図られつつある。
 電子情報や電磁記録等の媒介物を通して商標を表示し、あるいはインターネットのウェブサイト上に商標を表示した場合、現行法の@商標法第6条の「その他の類似の物件」の商標の使用形態にあてはまるかどうか、あるいはA第62条の他人の商標専用使用権を侵害するかどうかについては疑問なしとしない。そこで、経済智慧財産局は国内の社会や経済の発展状況に合わせて、現在の電子商取引のニーズに応じるため、1999年10月に商標法改正草案条文を提出した。
  (ロ)ウェブサイト名と商標権の衝突の現象を図る
ウェブサイト名と商標とは、規範的性質が異なっているため、両者間で生じた争いは、名称の類似、商品類別及び商標保護に関する属地主義等に関するものであり、常に論議されている。ウェブサイト名の一部を取ることにより識別性を有し、その商品又は役務の出所を表すのに十分である場合、法に基づいて当該指定商品又は指定役務について、当該商標を経済智慧財産局に登録申請することができる。他人の登録商標の文字をウェブサイト名として登録する場合、他人の商標専用使用権の侵害を構成することになるかどうかについては、実際のウェブサイト名を商品又は役務に使用したとき混同や誤認を招くかどうかの状況により判断される。また、経済智慧財産局は、国際立法の趨勢に合わせて「商標信用希釈化防止」理論を採用し、他人の著名商標をウェブサイト名として先登録することによりその商標を不当に利用したり商標の信用を毀損することを防止している。関連する改正条文については1999年10月に草案を提出しており、不当なウエブサイト名の先登録を制限するとともに、両者間の衝突の減少を図れると期待される。
 但し、この改正草案は、未だ議会を通過していず、施行されていない(近く通過する予定)。

4.その他、いわゆる先使用権(法第23条第2項)の解釈問題等があるが、紙数の関係上割愛する。

D. 以上述べたところにも表れているように、特に、ドメインネームに関する 紛争が現在国際的にも問題となっているが、それ故に各国は、不正競争防止 法若しくは、これに相当する法律にて対処すべく尽力している。我が国においても、間もなく国会を通過し、施行の運びとなる予定である(日本国:不競法第2条1項12号)。ちなみに、この改正案においては、是非はともかく「移転、取り消し」という救済規定がない。
  最後に、韓国法に関しては、特に、韓国の弁護士・弁理士である 鄭銀燮 先生(亜洲特許法律事務所)に多大なるご協力を頂き、中華民国(台湾)法 については、特に、台湾の弁理士である洪澄文先生(冠群国際専利商標聯  合事務所)、及び弁護士・弁理士である林鎰珠先生(台一国際専利法律事務 所)に、多大なるご協力を頂いた。この場をお借りして厚く御礼を申し上げる次第である。 
                                                          以上
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