問題点としては、ビジネス手法に独占権が与えられることに関する点と、ビジネス関連発明についての審査基準との問題があります。
ビジネスの手法に対する特許権付与について
ビジネスモデル特許の性質から、情報技術関連・電子商取引市場・電子通貨市場における新規ビジネスについて利用されるビジネスシステムについての特許及び特許出願が多数ありますが、このように新たに生じたビジネス市場において、ビジネスの方法を特定人が独占することは、後発者の市場参入を阻害する側面を有しており、産業の健全な発達を期する意味においてはマイナス効果も存在します。この点から、ビジネスモデル特許の成立に警鐘を鳴らす専門家も少なくありません。
しかしながら、種々の問題はあっても、知的創作である限り、通常の特許と同様に保護されてしかるべきであって、ビジネスの手法も技術要素と結合した形で経済効果を得られるのであれば、一定条件下において特許されることは、知的創作の世界においても、経済の発展の実情に即応するという面でもあるべき姿と考えます。なぜならば、ある企業が独自に開発したビジネス手法(システム)が、他者に簡単に利用されたり模倣・盗用されたのでは、企業努力は無となり、不正競走を惹起することとなるからです。
従って、特定人に独占させるにふさわしくない発明は、技術的に高度でない、着想が容易である、新規性・進歩性に欠けるといった点で判断されるべきであり、ビジネス手法であるから特許性がないと判断されることではないと考えます。
特許発明には、競合他社との差別化を計り市場を確保するために発明されたもの、他者への売却料又は他者からの実施料の取得のためにされたもの、他者との競合の中で防衛策として出願しておいたもの、純粋に先行技術を利用して発明されたもの等、様々であると考えますが、やがて、ビジネスモデル特許も、現場での洗礼をうけて、それぞれの取引市場の実情に即応した形で利用されていくと考えます。
審査基準について
当然ながら、どんなビジネス方法でも特許になるということではなく、特許されるには、自然法則を利用した高度な技術的思想であること、産業上利用できるものであること、新規性、進歩性があること等の特許要件は、従来と変わりありません。
特許庁では、ビジネス方法に関する発明の多くがソフトウェア関連発明として位置づけられることから、1997年に作成された「特定技術分野の審査運用指針」における「コンピュータ・ソフトウェア関連発明」に関する審査運用指針に従って、その特許性を判断するという方針を公表しています。
しかしながら、特許性判断に最も重要な新規性、進歩性の判断において、この分野における先行事例の情報蓄積の整備が未だ不十分であるため、実際の審査にあたっては困難が予想されます。このように、一応の審査運用指針は示されたものの、実質的な審査基準の確立には、しばらく時間を要すると考えられます。また、技術的進歩が特に著しい分野であることから、現状に即して今後審査基準が変動していくことも十分に考えられます。
現在、ほとんどの先進国は属地主義(特許による保護が国内にのみ及ぶ主義)をとっていますが、ビジネス方法に関する発明の多くは、コンピュータ・インターネットを利用するものであるという特質から、その発明を実施する地理的範囲が必ずしも国内に留まらないという特殊な側面を有しています。このため、主要な先進国は、ビジネスモデル特許に関して、国際間での審査基準のあり方を重要な問題として捉えています。
平成12年6月に開かれた日本、米国及び欧州の各特許庁による三極会談では、各々の特許庁のビジネス方法関連発明の審査においてその基本的姿勢に大きな差がないことが確認されました。すなわち、ビジネス方法が特許対象とされるには「技術的側面」が要求されること、及び、人間が行っている公知の業務方法をコンピュータ上で単に自動化しただけでは特許性がないことです。また、やはり各国共通の問題として、先行技術資料の整備の必要性が挙げられました。今後、この分野の審査に関して、各国の協力体制の強化・充実が図られると思われます。 |